ベア・カントリー

ここ最近は、あまりの忙しさに、なかなか写真を撮りに行くことができなかったが、移りゆく自然はしっかりと体感することができた。河川を埋め尽くすほどのサケが遡上し、いつの間に秋へと移り変わり森は黄色く染まる。

一瞬で過ぎ去っていったここ数ヶ月だが、中でも7月中に訪れたアラスカでの時間は、また格別なものであった。

アラスカの河川には、ピンクサーモンが川の色を黒く変えるほど遡上し、それを求めてたくさんのハクトウワシやクマが川にやってくる。産卵を終えたサケたちは、野生動物たちによって捕食され、森の中へと散らばっていく。海からリンやミネラルなどのたくさんの栄養分を運ぶサケたちは、森をさらに豊かにするのだ。


川の付近に生息するクマたちは、サケの遡上前は、もっぱら草を食べ続ける。
ゆっくりと歩き続けながら、ハマウドやシロザなどを頬張り一日の大半を食事をして過ごしていた。糞の中には、未消化の草が多く含まれることから、サケなどの動物性タンパク質に比べれば、エネルギー吸収効率はかなり低いだろう。

この時期の山の中は、冬に比べると非常に賑やかだ。
朝から夜まで、鳥たちが囀り続け、時折、大型哺乳類の足音が遠くに聴こえて来る。
もちろん、蚊やアブなどの攻撃にも悩まされるが、それはもうご愛嬌。
細かいことは気にしてはいられない。

白銀の静かな森も好きだが、木々が生い茂る夏の森も神秘的である。
同じ森でも全く異なった世界に見えて来るのだ。

今回は、特別に許可をもらって、現地の個人所有の山をのんびり歩かせてもらった。
もともと、原住民の人たちの神聖な場所だったようで、トレイルも全くない手つかずの山だ。
苔むした大きな岩が転がっており、冷んやりとした空気が体全体を包み込む。

 

ブッシュをかき分けながら進み続けると、そこにはクマが作った道が続いていた。

何頭ものクマがその道を使っているのだろう。
5m~10m間隔で、子連れの母グマ、大型の雄グマの足跡や未消化の草が混じった新鮮な糞が点在している。
一目で、クマの生息密度の高さがうかがえた。

やがて、一頭の若いクマが茂みから、道に入ってきた。
そのクマは、私の存在をしっかりと把握し、無害であるとわかるとその後は無視を決め込む。

ひたすら青い草を頬張り、お腹がいっぱいになると、そこで仮眠をとる。広い森の中で、クマと自分しかいない空間は、どこか知らない世界に来てしまったのではないかと思わせられるほど不思議な光景だ。

こんなにも森の中で無防備で寝ることのできる動物はいるだろうか。

目の前のクマは、
可愛らしい寝顔の裏側に、自分が森の生態系の頂点に君臨することを雄弁に語っているかのようであった。

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