グルメ

 最近、事務所の近くで1匹のアカキツネと出会うことが多い。
 
本来は、山や森でネズミや虫、果実などを食べて暮らすキツネだが、街中によく出てくるということは、大方、人の食べ物の味やゴミあさりを覚えた観光キツネだろう。
このキツネとは、ほぼ毎日出会っていたので、自然と愛着が沸き、「グルメ」と名付けて、一方的な親しみを込めて呼んでいた。
 どうやらこのグルメは、人間の食べ物を獲るのが非常に上手いようだ。他の観光キツネは、リンゴの芯や、食べ残したパンの耳などを咥えて歩いているのを見るが、このグルメは、マクドナルドのハンバーガ、フライドチキン、プーティーンなど様々なご馳走を美味しそうに頬張っていることが多い。下手をしたら、私よりも豪華な食生活を送っているのかもしれない。まぁ、キツネと競ってもしょうがないのだが。

 この観光キツネのように野生を忘れかけた動物は意外と多い。
街から、少し離れた森の中にある傷ついた動物などを保護、ケアしている保護区に住み着いているジリスたちもその一部だ。この保護区の動物たちは、健康を整えるため、ペレットや餌などを十分に補給されており、餌の確保が難しい時期でも関係なくエネルギーを摂取することができる。
 
 この給餌のおこぼれを預かっているのがジリスたちだ。しかも、この保護地区はフェンスでしっかりと覆われているため、天敵となるクマやリンクスは入り込めない仕組みとなっており、ジリスたちはフェンスと地面のわずかな隙間を通って餌にありついている。ここはジリスにとって、人間でいうところの山奥で見つけた品揃えの豊富なコンビニで、しかも、すべての商品が無料である。そんな素敵なコンビニを、山奥で見つけたら、私も間違いなく通いつめるだろう。

 ここのジリスたちも、このコンビニに通いつめた結果、非常に肥えてしまい、お腹が邪魔で、細いフェンスの隙間を上手に通れない個体までいる。しかも、安全地帯で生活を送ってきたジリスは警戒心も薄くなり、安全地帯外にもうろつきに出ている。
これは、キツネにとって格好の狩場になりそうだ。

 もし、グルメに出会ったら、次はそっとこのコンビニの事を教えてあげよう。
 大きなお世話かもしれないが、グルメもジリス達もお互いに野生の感を取り戻せるかもしれない。

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